「一生懸命に力を込めているのに、なぜか相手に押し負けてしまう」 「重い荷物を持つと、すぐに腕や腰が限界を迎えてしまう」もしあなたがそう感じているなら、足りないのは「筋力」ではなく、身体の「つながり」かもしれません。日本の国技である相撲の世界には、「腕(かいな)を返す」という驚くべき身体操作の知恵があります。この「腕を返す」技術をマスターすれば、スポーツでのパフォーマンス向上はもちろん、「固いビンの蓋を開ける」「重い荷物を運ぶ」「介護や抱っこをする」といった日常の何気ない動作まで、今までの3分の1の労力でこなせるようになります。今回は、力士たちが土俵の上で実践している「腕と体幹の連結術」を解剖学的に紐解き、誰でも今日から使える実践的なスキルとして伝授します。あなたの腕と身体がつながる感覚を、ぜひ体感しましょう!
「腕を返す」:なぜその一動作で腕と体幹がつながるのか?
相撲の「腕(かいな)を返す」動作を簡単に言うと
相手の脇の下に差した腕の「肘(ひじ)」をグイッと張り上げ、手のひらを外側に
向けるようにひねる動作のことを指します。
この動きで相手の動きを止めると同時に、相手の重心を浮かすことが出来るのです。
「腕を返す」動きの分析
この「腕(かいな)を返す」動きを分析すると、
主に前腕の「回内(かいない)」と肩関節の「内旋(ないせん)」
そして肩甲骨の動きが組み合わさった複合運動と言えます。
一言で言えば、「腕を内側にねじりながら、支点を引き上げる」動きです。
それぞれ見てみましょう。
前腕の回内
「手のひらを下(または後ろ)に向ける動作」のことです。
相撲の場合では手のひらを自分側(あるいは上)から、外側へ向ける動きです
(手の甲は相手の背中側)
前腕には橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)という2本の骨があります。
回内は、親指側の橈骨が、小指側の尺骨をまたぐようにクルッと交差することで
起こります。
肩関節の内旋
上腕骨を内側にひねる動きです。
肩の内旋は、肩甲下筋や広背筋などの非常に力強い筋肉
(インナーマッスルとアウターマッスルの両方)によって行われます。
肩甲骨の動き
肩甲骨を外転させます。相撲では肘を外に張りだす動き。
イメージしやすいのは「肩の出っ張り」を前に出す動きでしょうか。
肩甲骨の外転には前鋸筋や小胸筋などを使います。
前鋸筋は「ボクサー筋」とも言われ、肩を押し出す動きを主導します。
何故この動きが「強い」のか
この動きがなぜ強いのか。
それは「腕と体幹を連結させる」ことが出来るからです。
その仕組みは
1 「前腕の回内」と「上腕の内旋」で腕をロックする。
2 その状態で肩甲骨を外転させ肩を前に出す。
3 こうすることにより、体幹にある前鋸筋や小胸襟などのコアな筋肉
の動き(力)がロスなく伝わる。
ということです。
「腕を返す」を習得するための3ステップ
頭で理解したら、次は身体に覚え込ませましょう。
腕と体幹をつなげる感覚を養うための3ステップを紹介します。
肘回し
壁の前に立ち、壁に手をつきます。(テーブルでもOKです。)
その状態のまま、指先は固定して、肘の向きだけを内側や外側に回転させてみてください。
上手く連動していると、肘を回転させるたびに脇の下や背中の筋肉が硬くなったり緩んだりするのが分かるはずです。
この「脇の下の締まり」こそが、腕と体幹が繋がった証拠です。
スムーズにできるようになったならば、手を固定せずに空中でやってみてください。
(これは意外と難しいです)
腕の螺旋運動
両腕を左右に広げます。右手は手のひらを上に、左手は手のひらを下に向けます。
息を吐きながら右腕を内側に雑巾を絞るように限界までひねります。
この時、手→腕→肩の順番で回していきます。
右腕がひねり終わったならば、そのひねりを左腕に伝え、
今度は外側に開くように、肩→腕→手の順に回していきます。
左腕を外側にひねり終わったら、内側にひねり、これを右腕に伝えていきます。
今度は右腕が外側にひねられます。
これを何度か繰り返しましょう。
ここのポイントは「肩」
内側にひねる時にわずかに前に動くことを確認します。
あくまでひねられた結果そうなるので、意識的に動かす必要はありません。
壁押し
最後は「壁押し」です。
壁の前に立ち、指を上方に向けて、壁に片手をつきます。
この時に体重を掛けないようにしてください。
親指を下方に向けるように前腕を回内させましょう。
ある程度回ったら、次に上腕を内旋させていきます。
そのまま回し続けると自然と肩が前に出てきますので
壁に押し返されるような形で、体がポンッと後ろに弾かれます。
壁を押していないのに押し返される不思議な感覚です。
うまく出来ない方は「前腕の回内」か「上腕の内旋」を途中で
やめていることが多いです。
動きを止めることで腕がクッションとなって、体幹~肩~腕へ伝わる
力の流れが吸収されているので、動きを止めないことを意識してみてください。
左右、手を変えてやってみましょう。
腕を返す動きを鍛えるトレーニング
腕を返す動きを鍛えるトレーニングはやはり「相撲をとる」ことですが
それはハードルが高いので、自宅でできるトレーニングを紹介します。
それは「テッポウ」です。
「テッポウ」とは柱などを手で突く、相撲の稽古です。
「なんだよ、結局、相撲の稽古かよ」をいう声が聞こえてきますが、
やはり、相撲の動きなので「相撲トレ」が一番効果的です。
「テッポウ」は壁を相手にするなど、自宅でもできますので是非、試してください。
詳しいやり方はこちらの記事をどうぞ。
自宅で出来る相撲トレ「テッポウ」で腕や肩の使い方を上手にして肩こりを解消しよう!
スポーツ以外の日常生活でも役立つ「連動」の知恵
この「腕を返して体幹とつなぐ」という知恵は、スポーツに限った話ではありません。
いくつか紹介します。
固いビンの蓋を開ける
手首を回してビンの蓋を開けようとすると力が逃げてしまいます。
手首は回内、腕は内旋して固定し、脇を開くように蓋を回すと、力がダイレクトに伝わります。
重い荷物を持つ
腕の力だけで持ち上げようとすると腕力が必要になり、腰にも負担がかかります。
手を内側に絞る(返す)ようにして荷物を持つことにより、驚くほど軽く持ち上がります。
介護や抱っこをする
手首を回内させてから対象者を抱きかかえるようにします。
こうすることにより、体幹とつながりが増し、腕力だけではなく体幹の力も使えるようになり、
楽に抱っこをすることができます。
また、長時間耐えることが出来るようになります。
まとめ
今回の記事では「腕(かいな)を返す」動きを取り上げました。
「腕を返す」という動作は、単なる小手先のテクニックではありません。
それは、人間の身体が持つ本来のパワーを引き出すための、身体操作術であり、
精密な「連結作業」なのです。
その習得方法を3ステップで紹介しました。
1 肘回し
2 腕の螺旋運動
3 壁押し
でした。
スポーツなどでは、腕と体幹を連結させることにより動きの質が変わることでしょう。
「腕を返す」を習得したら、力が増えるのみならず、正確性も向上することを体感できる
はずです。
また、「腕を返す」身体操作術はスポーツのみならず、日常生活でも役立つものです。
あなたの日常が少しでも快適になるように、是非取り組んでみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事が皆様のからだ創りの一助になれば幸いです。

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